STORIES:OKUROJI

【Photographer’s OKUROJI】 #9
クリームみたいな泡、飲みませんか?

<small>【Photographer’s OKUROJI】 #9</small><br/>クリームみたいな泡、飲みませんか?<br>
ストーリー

2021.03.27

PUBLIC HOUSE Little GANG

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写真家の在本彌生さんがOKUROJIを訪れ、撮影。彼女のフィルターを通した、OKUROJIの姿を写真とエッセイで綴ります。今回は『PUBLIC HOUSE Little GANG』をフォーカス。

Photo & Text:Yayoi Arimoto

クリームみたいな泡、飲みませんか?

イギリス、スコットランド、アイルランドあたりを旅していると、どんなに小さな田舎の町にも人々が集うパブをみつけ、そんな店によそ者としてふらっと寄ってみる。そこにいけば約束しなくても誰かしら知人友人がいて、挨拶がてら言葉を交わし、一杯飲んでから家に帰って夕食なり、彼女とデートなり、あるいはもう一杯いっちゃおうか……それぞれの飲み方過ごし方でパブでの時間を楽しむ。そんな場所によそから来た私が入っても注ぎたての一杯は平等に美味しいもので、彼らが楽しそうに会話する様子を見守りながら飲むのも結構良いものだ。スポーツ観戦も大事な要素で、地元のチームの試合がある時などは、スタジアムに集うような勢いでパブに人々が集まってきては、試合の動向に一喜一憂する。付かず離れずの中での一体感、それがこの場に人々が求めることなのかしら。何れにしてもパブという場所は、ある意味それぞれの町の息遣いを取って代わって表す、町の個性がそのまま現れるところだと思う。

昨年9月にOKUROJIに登場したPUBLIC HOUSE Little GANGは、その名の通り小さいけれど、イギリスの小さな町にあるような気さくな雰囲気のパブで、OKUROJIのガード下のロケーションにもしっくりと馴染んでいる。折角なので、滅多に日本では美味しいと実感できたことのないギネスを注文してみる。この雰囲気なら本格的な味を期待できそうだ……。目の前に運ばれてきたギネスは予想を超えるほどに正統派、ふくよかできめの細かい泡をたたえた美しい一杯だった。ひと口喉に流すと、ふわっとしてクリームみたいなムースが唇に当たり、苦くて甘い大人味が迫り来る。こんなに最高のコンディションでギネスを注いで飲ませてくれるところがOKUROJIに出来たなんて嬉しいではないか!店長の加藤さんの巧みな技術に私は思わず唸ってしまった。ギネスの注ぎ方へのこだわりは相当なもので、これについては是非お店で軽く質問してみて欲しい、きっとギネスを飲む前にちょっとした意識改革が起こるだろう。専用のグラスはピカピカに磨き上げられているが、細かい傷がつかないように全て手洗いしているというから素晴らしい。

ひとりでこの店を切り盛りする加藤さん、イギリス留学中パブの魅力に開眼し、この仕事につくようになったと言う。流石、店の品の良さと肩肘張らないムードをバランスよく保つ、要の役割を担っていらっしゃる。ひとりで立ち寄るもよし、友達と待ち合わせてはじめの一杯を乾杯するもよし。ドリンクとスナックのみのメニューのラインナップも潔く気兼ねない。そして、一言声がけすれば、食べ物を外から持ち込んでも良いと言う寛容さ。OKUROJIの他のお店のテイクアウトを利用することもできるなんて便利だな。店の外のテーブル席では、町ゆく人を眺めながら飲める楽しさもある。美味しいギネスを飲みたくなったら駆けつけたい店が日比谷に誕生したのは嬉しい限りだ。近い将来、ここが本当の意味でこの町のPUBLIC HOUSE、顔見知りにいつでも会える場所になったら楽しい。

Profile

在本彌生(ありもと・やよい)
東京生まれ。外資系航空会社で乗務員として勤務、乗客の勧めで写真と出会う。以降、時間と場所を問わず驚きと発見のビジョンを表現出来る写真の世界に夢中になる。美しく奇妙、クールで暖かい魅力的な被写体を求め、世界を飛び回り続けている。2006年5月よりフリーランスフォトグラファーとして活動を開始。雑誌多数、カタログ、CDジャケット、TVCM、広告、展覧会にて活動中。
 

http://yayoiarimoto.jp/photo/fashion/

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