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【OKUROJIスイーツ図鑑】#1
あのバターの旨味を閉じ込めた、特別なカヌレを追って。

<small>【OKUROJIスイーツ図鑑】#1</small><br/>あのバターの旨味を閉じ込めた、特別なカヌレを追って。<br>
グルメ

2021.02.18

PATISSERIE PAROLA

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これまでに数々のスイーツを食してきたスイーツライターchicoさんがOKUROJIの名店を巡り、名物スイーツの魅力をレポートする「OKUROJIスイーツ図鑑」。No.01は『パティスリーパロラ』のカヌレ。

Photo:Kenji Nakata Text:chico

甘い香りに誘われてOKUROJIのパリへ。

アーチ型の天井の先にパティスリーが輝く光景は、パリのパサージュ(アーケード)みたいで気分があがる。『パティスリーパロラ』に来るのはこれで二度目。カウンターデセール(デザート)が楽しめる店ですが、今日のお目当てはカヌレ。前回はデザートしかいただいていなくて、ずっと気になっていたんです。

甘い香りに誘われてOKUROJIのパリへ。

「こんにちは〜」ととびきりの笑顔で迎えてくれるアレクシ・パロラシェフ。こういうカウンターはデザートそのものはもちろん、目の前でパティシエが鮮やかに自分の一皿を作ってくれる、その工程やコミュニケーションも醍醐味。パロラさんときたら確かな腕に加えて、イケメンフランス人にして気取らずフレンドリー(安心の日本語ペラペラ)。ずるい、もう最高ですね。

でも今回はカヌレだからテイクアウトだけなんだよね、と思ったら、カヌレのアシェットデセール(皿盛りデザート)があるではないですか。カヌレをデザート仕立てとは珍しい。しかもコースでも単品でもOKとはいろんなシーンで楽しめそう。

 

『シェフのデセールコース』は『季節のフルーツ&シャンパーニュゼリー』、『レモンのスペシャリテ』それから『カヌレとフィナンシェのアシェットデセールプレート』にペアリングドリンクがつく贅沢なメニュー。

 

ちなみにこの「レモンのスペシャリテ」は前回いただいたのですが、一見レモンなフォルムのチョコをパリッと割ると、レモンムースやレモンとミントのジュレがとろり流れ出す心地よい一皿。お時間あればこちらもぜひ。

クラシカルなカヌレが鮮やかにあか抜ける!

クラシカルなカヌレが鮮やかにあか抜ける!

でも今日はサクッと軽く楽しみたいので単品で。オーダーするとパロラさん、カラフルなフルーツやソースがずらっと収まるボックスを目の前に並べてくれます。お寿司やさんか鉄板焼き屋か、なんらかの高級店みたいな感じ。これは高まりますね、と思っていたらさらに嬉しい追い討ちが。


「このデザートはカヌレとフィナンシェは必ず入り、フルーツやアイスの種類、盛り付けのデザインはお客さんのイメージに合わせてアレンジしていきます」。
なんというホスピタリティ。デザートとは楽しみ尽くすためにあるのです。

ソースやフルーツを使って、見事に描かれていくお皿のアート。大人しく眺めながらも心はすでに踊り出しています。


サーブされたお皿といったら、なんてカラフル! フランボワーズとイチゴのソースやリュバーブのコンポートに、“せとか”とピンクグレープフルーツの果肉が花咲くよう。チョコとパッションの小さなマカロンのアクセントに、生姜のアイス、ライムのメレンゲが清々しく香りの個性を添えて。ちょこんと乗ったトンカ豆風味のホワイトチョコサブレのハートも愛らしい。


朴訥でクラシカルな焼き菓子がこんなに垢抜ける日がくるとは! いつまでも鑑賞していたいところですが、おいしそうです、いただきまーす!

色彩の中でシックに艶めくカヌレを口にすると、カリッムチッとしたかと思うと、じゅわりとバターが染み出すような感覚。焼き立というのもあって、こんなバタージューシーなカヌレは初めてかも。
こんがりキャラメリーな表面の香ばしさが押し寄せたかと思うと、わっと発酵バターのミルキーで豊かな香りがあふれて、どこまでも芳醇!

「この、赤ワイン塩をかけた、岩手の『しあわせ牧場』のグラスフェッド生クリームも、カヌレやフィナンシェにつけてみてください」とパロラさん。赤ワイン塩とは聞き慣れないけれど、赤ワインの香りを塩にうつした自家製という。パロラさんは実は料理人としても研鑽を積んでいる。だからこそのこういう柔軟さもいい。

 

このままで美味しいのになぁと内心思いつつ、ちょっとだけつけてみる。なるほど、バターのミルキーさが際立ち、塩気が味の輪郭を浮かび上がらせるよう! そしてさりげない赤ワインの香りがいい具合に味の奥行きを深めていく。


カヌレはワイン造りが盛んなボルドーでその昔、ワイン醸造の際に檻を取り除くのに卵白を使っていて、余った卵黄で作られたのが起源とか聞いたことがある。ワインがしっくりくるのも必然。次はワインとのペアリングもやってみたいな。

凝縮したバターの香りを閉じ込めて。

凝縮したバターの香りを閉じ込めて。

それにしても数ある焼き菓子の中でも、なぜカヌレにフューチャーしているのだろう?


「『ボルディエバター』の香りを生かしたかったんです。カヌレは外が固くて中が柔らかくて、カリッとした表面が香りを閉じ込めてくれます。中はレアな方がバターの香りがより立つので、一般的なカヌレ以上にレアに仕上げています。バターの香りを生かすためにバニラも使っていません」と、パロラさん。


『ボルディエ』といえば、フランスを代表する老舗バターブランドの一つ。実はパロラさんのお父さんはボルディエと同じグループ会社でチーズ農園をやっていて、ボルディエの当主と経営者同士で交流があったのだとか。とはいえもちろん、選んでいる理由はその味にある。


「このバターに使われるミルクは、ミネラル豊富な牧草で育つ牛から搾るフレッシュなものだけ。手作りで添加物を使わないから、賞味期限は短いけれどそのまま食べても美味しいんです。滑らかで芳醇なミルクの香りが広がりますよ」

従来スタイルのテイクアウトのカヌレは、手みやげにも評判。
1〜2つでもシックなミニバックに入れてくれるから、気どらないプチプレゼント(1個324円)にぴったり。
8個入りのボックス(2592円)なら、よりかしこまったシーンにも活躍しそうです。

新テイクアウトアイテムはフォアグラ×チョコレートの禁断フュージョン!?

「テイクアウトといえば、このバレンタインシーズンから、『フォアグラチョコレート』もお持ち帰りできるようになりますよ」とパロラさん。


ん?なんですかそれ? 聞けば、デザートコースの中で、メインデザート前のお口直し的に近頃出しているものだそう。
「ちょっと食べてみます?」そう言うとパロラさん、おもむろに液体窒素を取り出す。-126℃で瞬時に冷やし固めることができる液体窒素は、もはやデザートの世界でもおなじみのアイテムですが、ここで現れるとは嬉しい予想外、一体何が始まるの?


プラリネで包んだフォアグラに溶かしたチョコをとろりとかけると、-126℃の液体窒素の中へ。
シュワ〜。なんとも気持ちいい音を立てると、瞬く間にチョコがパリッと固まり完成。

早速いただきます。パリカリッ、とろり。外は固まりつつ、中のフォアグラは滑らかで、クセになる甘じょっぱさ!
ナッツのウッディで奥深い香りとこくまろなフォアグラが禁断の融合を果たしています。おつまみ感覚で、これはワインが止まらなくなりそう。

類稀な食体験を楽しませてくれるパロラさん、さらにこれから作りたいものもたくさんあるとか。


「フランス菓子はよくお酒を使うんですが、日本酒をもっと勉強して、酒を使ったフランス菓子を色々作りたいですね。日本の素材とフランス菓子のミックス。前に梅酒グラサージュ(糖衣)のカヌレを作ったこともあるんですよ」。
日本素材とフランス菓子のフュージョンとはまた気になる! 再びお邪魔する日も近そうです。

■Profile

ALEXIS PAROLA(アレクシ・パロラ)
フランスはブルターニュ地方、ナントのポルニック出身。チーズ農場を営んでいた父の影響もあり、ホンモノの味が身近にある幼少期を過ごす。農場の牛乳やチーズで作る母のお菓子が大好物で、物心つくころには、自分でお菓子を作るように。更なるデセールの世界を知るべく、フランスのパティシエスクールを卒業後、パリ、ナントでパティシエとしての経験を積み、アルザスでは鍋ブランド『ストウブ』のレストラン『Le Theatre( ル・テアトル)』にてシェフ・ パティシエとして活躍。その後ベルリン、スコットランドへ渡り、シェフ(料理)とパティシエ(製菓)として働く。2016年来日。神楽坂のビストロ『Le Moccot(ル・モコ)』を立ち上げ後、2018 年、株式会社テン・スターズ・ダイニングの統括パティシエとして『TEPPANYAKI 10』に従事後、2020年11月オープンの『パティスリー・パロラ』シェフ・パティシエとして新たな挑戦をはじめている。サッカーが大好きで、ジダン推し。OKUROJIでは『まんてん鮨』がお気に入り。

chico(チコ)
スイーツライター。食への興味が抑えられず1999年、モデルからフードライターへ転身。その後お菓子の知識を競うTV番組への出演をきっかけに、本格的にスイーツライターとして活動するようになる。スイーツのトレンドに精通し、『anan』や『Hanako』、『BRUTUS』、『エルグルメ』はじめ多数の雑誌やweb、TVでスイーツ記事の執筆やスイーツ特集の企画監修を行うほか、ギフトのセレクトショップ『g GIFT AND LIFESTYLE』やECサイト『SALUS ONLINE MARKET』などのスイーツ監修も手がける。『anan』で『Food News 〜chicoのお菓子な宝物』、『SALUS』で『もらって嬉しい手土産スイーツ』を連載中。『東京の本当においしいスイーツ探し』シリーズ監修。共著に『東京最高のパティスリー』。

 

※文章内の価格は税込み表記です。

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